さば缶のなかみ

映画とか本とかの感想とか

わんこがかしこかわいい『メコン大作戦』!(東京国際映画祭1本目)

 2016年の東京国際映画祭2016、1本目はダンテ・ラム監督の『メコン大作戦(Operation Mekong [ 湄公河行動 ])』!ラム監督は前作の『破風』も去年上映されてる常連監督さんですね。実は監督の作品、これが初めてなんですけど(>_<)

ストーリー

 2011年、メコン川で中国船籍の船員が皆殺しにされる事件が発生。流域の各国はこの船員たちを麻薬密売組織として処理したが、当事国である中国はこれに反発し、彼らの名誉回復のため、真犯人の検挙に乗り出す。ミャンマー、タイ、ラオスの参加国にまたがる麻薬漬け地帯「黄金の三角地帯」を舞台にエディ・ポンとチャン・ハンユーとわんこ(とそのチーム)が麻薬組織に立ち向かう!

エディ・ポンもチャン・ハンユーもいいけどやっぱりわんこ!

 主役はエディ・ポンとチャン・ハンユーのコンビで、チームはあるもののバディものの変形みたいな感じ。エディ・ポンは去年の『破風』(『疾風スプリンター』)から引き続いての登場ですね。最初は変装していてわかりづらい(笑)チャン・ハンユーは初めて見た役者さんなんですけど(すみません、普段は洋画邦画ばっかりなもので…)、なんだか渡辺謙っぽさがあって親しみを覚えました。で、もちろんこの二人も最高なんですが、この映画の裏の主役はかしこくてかわいいわんこ!名前は哮天!人探ししたり爆弾を運んだり地雷原を突破したりします。チームの他のメンツよりも活躍してるのでは?というくらい見せ場があって楽しいです。怖い犬というよりは柴犬感あふれるわんこです。でも、賢くて可愛いだけに、クライマックスの展開はつらいものが…。ちょっとキアヌの『ジョン・ウィック』を連想しました(これってネタバレになっちゃいますかね…)。

ショッピングモールのアクションシーンがほんと最高!

 全体的にテンポが良く、ダレ場のようなものがほとんどないストーリー展開です。いろんな事件が次から次へと押し寄せて、2時間があっという間。派手なアクションシーンは大きく3つあって、前半のカーチェイスとクライマックスの麻薬組織のアジト襲撃もとても良いのですが(特にカーチェイスRPGがドンドコ飛んできて楽しい)、中盤のショッピングモールが特に良かったです。敵のボスをおびき出すためにカジノ建設を計画する大富豪を装って麻薬組織に近づくハンユーたち。一見和やかな商談会の裏での息詰まる攻防。そして派手な銃撃戦へと雪崩れ込むなし崩し感。何気ない子どもが銃撃してきたり、モールの中なのにカーアクションがあったり、そしてその暴走車に椅子で立ち向かうチャン・ハンユー!(笑)そういえば、椅子で戦う映画なんかほかにもあったなあ、ともやもやしてたんですけど、あれですね、『シャークネード』(最初のやつ)!あ、あと後半にこれまでに見たことにないような拷問シーンがあるんですけど、ここがあからさまな合成でちょっと笑ってしまいました(笑)しかし高所恐怖症の人にはあれは怖い!

実話が元だけどフィクションも多め?

 ところで、このお話、まったく予備知識無しで見に行ったんですけど、エンドロールの最後に「この話は実話ベースです」と出てきたのでかなり驚きました。というのも、物語後半にかなり衝撃的なシーンがありまして…。この映画の敵役の麻薬組織は現地の少年を麻薬漬けにして兵士に仕立てているという設定なんですが、これ自体は現実世界でも実際に行われているとのこと*1。で、この少年(少女)兵がかなり不気味な存在でして、普通の子どものふりをしておもむろにマシンガンを撃ちまくる中盤のショッピングモールのシーンが印象的だったのですが、その後にまたものすごい事件があって…。「え、でもこんな大きなテロ事件でしかも子どもが犯人だったら、かなり話題になるよね?」とちょっと混乱していたのですが、上映後のQ&Aセッションで同様の疑問を呈した方がいらっしゃって、それに対する監督の回答は「未遂で終わったけどテロ事件は計画されていて、劇中ではそれを膨らませた」ということでした。総じて、元ネタはあるけれど、針小棒大と言っても良いのか、かなり映画的に脚色しているとのことでした。麻薬とか少年兵とかテロリストとか現実のものを使ってはいるのですが、どこかフィクションめいていて、確かに映画的には盛り上がりますね。「黄金の三角地帯」も完全に創作だと思ってましたし。そういう現実の影が頭のすみをよぎってしまう後ろめたさのようなものを含みつつも、非常にスタイリッシュなアクション映画なので『破風』と同じように日本公開されるのを期待してます!あと、六本木のスクリーン7のかなり前の方で見たのですごく疲れました…(日本語の字幕は右側に出るのです…)。

f:id:savacan-s:20161111103306j:plain

▶上映後のQ&Aセッション、生ダンテ・ラム監督!

*1:そういえば伊藤計劃先生の『虐殺器官』を思い出しました。

『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』は完全に表紙詐欺だけど超面白いディストピア小説なのでみんなに読んでほしい!

 

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

 

 

ロボットが全然出ないょ…

 ピーター・トライアスさんの話題の小説『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』を読みました。

 ざっくりとあらすじを書くと、「第二次世界大戦で枢軸国側が勝利した世界で、アメリカ西海岸に打ち立てられた日本合衆国(United State of Japan)を舞台に、小太りのボンクラ軍人とキチガイ特高*1女が失踪したゲームデザイナーの将軍を追ってアレヤコレヤする」といった感じの、「あ、これ『高い城の男』じゃん」という作品です。『高い城の男』の中では『イナゴ身重く横たわる』という小説が架空の歴史を描くものとして登場しましたが、こちらではその名も「USA」という、第二次世界大戦で米軍側で日本軍と戦うネトゲー(話の中では「電卓ゲーム」というステキ単語)が流行している設定です。21世紀っぽいですね!

 そして、この奇妙な戦後世界を作り出したのが、大日本帝国が(何故か)持っていた超テクノロジー。『高い城の男』はいきなり戦後からでしたけど、『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』ではアメリカが敗北する終戦の日がプロローグにあてられていて、サンノゼに原爆が投下されるショッキングな場面が登場したりします*2。そして、もう一つが表紙にデカデカと描かれている巨大ロボット!劇中では「メカ」と呼ばれているんですが、身長はビルよりも高く、各種武器を内蔵し、転倒すればあたりの住人が1,000人単位で死んでいく超兵器。ていうか、明らかに「パシリム」に登場するイェーガー意識してますよね(笑)口絵に書かれたメカなんかどう見てもジプシー・デンジャー!

 で、てっきりこの巨大ロボットが大暴れするかと思いながら読み進めるわけなんですけれど、これがいつまでたっても出てこないんですよ…。ところどころでチラッチラッと影はかすめていくんですけど…。全体の十分の一もない感じ。でも、アメリカ東海岸を支配するドイツ第三帝国の超重戦車Ⅸマウス(すごくでかい)が出てきたり、1対8のロボットアニメっぽさ全開の戦闘シーンがあったりして存在感はあります。「コックピット内ではパイロットは大元帥と同等」という設定もカッコいいし、メカの名前が「ムササビ號」とか「ハリネズミ號」とかやたら可愛いのもポイント高し。

天皇陛下万歳系ディストピア最高!

 というわけで、この小説は巨大ロボット大暴れの要素は少ないのですが、その一方でディストピア小説としては超面白いです。『1984』のビッグブラザーの立ち位置が天皇陛下になっているというだけでもかなりヤバいんですけど、その陛下の陰口を叩くともれなく特高憲兵隊がやってくるという絵に描いたような大日本帝国感がたまらない!ちなみに劇中では陛下に子どもが出来ないことがネタにされてて、なかなかセンシティブなところを突いてくるなあ、という感じです。しかも原爆(放射能)ネタと絡めてくるんですよ…。

 ディストピアといえば監視社会ですが、この世界での監視ツールは「電卓」。現実の世界では電話がベースとなってスマホが誕生しましたけど、「電卓」はその名の通り電卓に電話機能やらネット機能やらが追加されてできたデバイスです。ちなみにこちらでのインターネットは「機界」という訳でカッコよすぎです。で、主人公の石村大尉(ベン)はその電卓のプログラマー、正確に言うと電卓用のゲームデザイナーという設定。電卓ゲームの選択肢から不穏分子をあぶり出す仕事です。

 そして、もうひとりの主人公が特別高等警察の規野(つきの)課員。このお姉さんがまた魅力的なキャラクターでして、ディストピアSFは体制側にいた主人公が自分の所属する世界に疑問を持つというのが定番なわけですけど、この人は皇国への忠誠心がほとんど揺らがない。ちょっとネタバレになりますけど、自分が追われる身になってもなんとか忠誠心を示して挽回しようとする、そのへんの一貫性には惹かれます。一方で帝国の重要人物であっても道義的にヤバい奴はとりあえず殺す、みたいなプッツンすると何をするかわからないところがあるのも面白いです。「え、ここでこの人死なないでしょ?」っていう重要人物がどんどん殺されます(笑) この人には次回作にも出てほしいし映像でも見てみたい人物ですね。

 ところで、この小説は食事描写も面白いんですよね。石村大尉がしょっちゅう何か食べてるのもあって色々な料理が登場します。それも、いわゆる「ディストピア飯」ではなく、ジャパニーズなアメリカン料理といいますか、例えばハチミツを染み込ませたパンズに天ぷらを挟んだ、その名も「天ぷらバーガー」なんてのも登場します。ちょっと食べてみたい。朝ごはんの描写でさり気なくかっぱ巻きが出てきたりもして。そのあたりのチバシティっぽさみたいなのも楽しい。

 

映画化したらすごく良さそう!

 巨大ロボットももちろん魅力的なんですが、上に書いたように、日本合衆国というへんてこな世界での日常描写はぜひ映像で観てみたいですねー。『高い城の男』もドラマ化したし、日本での出版もかなり順調なようですので、ハリウッドと言わないまでもどこかで映像化してほしいです。日本のアニメでもいいですね。合いそうです。

 ところで、この作品、すでに次回作も決まっているということでそちらもかなり楽しみ。次は本格的なメカ戦があるとか!期待大ですね。

*1:特別高等警察

*2:後々で言い訳めいたことが書かれてるんですけど、それがまた現実のアメリカとそっくりなんですよね。建前も本音も。